2013年8月23日金曜日

8/23 【映画感想】マリーゴールド・ホテルで会いましょう



マリーゴールド・ホテルで会いましょう

監督 ジョン・マッデン
出演 ジュディ・デンチ   マギー・スミス   ビル・ナイ   トム・ウィルキンソン



ネタバレ多数です。




老いた時点に老いて、最も厄介な病は
ガンでも糖尿病でもなく、「若さへの渇望」なのかもしれない。




あらすじ:
 インドのジャイプールにある“これから豪華になるはずの”リゾートホテル。
 そこに集まったのは、イギリスでの生活からそれぞれに理由でリタイアした老人たち。
 インドの喧噪にうろたえながらも、新しい生活の中でそれぞれの人生を見つけていく。


映画冒頭、プロローグではそれぞれの登場人物の説明的カットが続きます。

40年間付き従った夫に先立たれ、夫の借金を返済するために家を手放す未亡人。
役所勤めを退いて新しい家を探すが、不穏なやり取りが続く夫婦。
男性として、女性としての人生を謳歌したい独身者の男女2人。
人工股関節の手術のためにやむなく渡印する人種差別者の老女。
青年期まで暮らしたインドで後半生を過ごそうと仕事を辞めた高等法院判事。


青の色調を強め、イギリスでの生活が孕む「閉塞感」を演出した画面は、
ハンディカムでの撮影により、どこか不安定でやり場のない印象を与えます。
そうした演出の中、それぞれのこれまでの半生とキャラクターが、
リズムのいい編集で紡がれていきます。

彼らが行き着いたのが、インドのジャイプールにあるマリーゴールド・ホテル。

人生の豊かな円熟期に英国式の洗練されたインドの邸宅での暮らしを眺めの良いテラス、明るい中、いくつ物や寝付きバルコニー歴史を感じる建物での穏やかで心地よい日々ここは滞在する方々をかつての統治時代に誘います

そこを目指す面々には、それぞれの人生、それぞれの目的、それぞれの挫折と絶望。

そんな人生が交差するシーンとしての空港のベンチのカットは、
とても気に入った映像です。



これから生きていく時間よりも、これまで生きてきた時間の方が長い。
それ故に自由な価値観を持つ人もあれば、それ故に断定的な価値観を持つ人もいる。
あるいは、個々人のなかにどちらの人間も存在しているのかもしれない。



対比されるのは

若さと老い穏やかで閉鎖的なイギリスと騒がしく色彩豊かなインド生命力と死んでいく宿命

うらぶれたホテルを切り盛りするのは、大きな夢を抱いたインドの青年。
そこに滞在するのは、古い夢をイギリスに残し、新しい夢を見んとする老人たち。

死の存在を受け入れ、それを見据えた瞬間に、
生きることの輝きは増し、生きる意味の輪郭は濃くなっていきます。
彼らにそれを教えるのが、インドという地。
洗練されておらず、汚く、騒がしく、
けれどエネルギーに満ち、人との関わりを強く感じさせる地。


それを裏付けるかのように、インドが舞台になった瞬間、
画面の色彩感は極彩色を強調し、ヴィヴィットな輝きでいっぱいになります。
なにより、光を感じさせる映像。


すべてを受け入れる地では、愛を得ることも愛を失うことも同等に尊く、
生きる希望を得ることも死を受け入れることも同等に尊いのです。
もちろん、誰にとってもこの地が最上の地というわけではなくて、
イギリスという“平安の地”に、“想定外の存在しない地”に、
“想像力と好奇心を必要としない地”に帰っていくという人生もあります。
どちらが優れていて、どちらが正しいということではない。どちらも正しい。



ホテルを中心とした群像劇という形式は、当然「グランドホテル」を意識していて、
だからこそたくさんの人生の邂逅が、鮮やかに、意味を凝縮されて観客の眼前に現れます。
名優たちのリラックスした演技を楽しみながら、
インドという地の持つ不思議なエネルギーを画面のディテールから感じることができます。


老人は若者の背中を押し、若者は老人に寄り添い生きる活力を思い出させ、
インドという土地が、マリーゴールド・ホテルがそれらを優しく力強く包み込みます。





yy



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