春寒の弥生。
昨日の雨曇りからはうってかわって抜けるような晴天。
ただ風は冷たく、盆地の早春をなめていました。
午前中からゆったりと支度をして秋篠へ。
馥郁たる梅の香誘われて
こちらも念願の、技芸天女さまへ会いにいくことにしました。
秋篠寺は静かな住宅地を抜け、なんとも親密な生活の香りの中に
しんと鎮座するかのような佇まい。
南の門をくぐり振り向けば崩れた土壁のその肌の雄弁さ。
参道を歩けば踏みしめる砂利の音が木々の間を抜け、
一面をこんもりと覆う苔の美しいこと。
参道脇の所々に置かれた岩や天を覆うかのように伸びる樹木の根元を
柔らかく包み込む明るい緑の苔に、
この景色に至るまでの年月を思います。
頭上を大小さまざまな葉に塞がれた参道は、
地面に這うような静寂を感じさせる空間です。
白壁と格子状の引き戸、本瓦葺きの甍。
本堂の土間を踏み中に入れば、ずらりと並ぶ仏像の姿壮観。
中心に本尊の薬師如来を見つける間もなく視線を感じる先に目を上げれば
柔和に口角を横に引かれた技芸天さまの立ち姿がありました。
高校1年の冬、声楽の道を志してから
いつかは自らお参りをしたいと思い続けていた技芸天女像。
ふくよかな体つきにたっぷりとした頬の肉付き。
目は極々細く開かれただけですが、それと合う位置に立ったときの
なんともいえない包まれるかのような心持ち。
ゆったりと右足に体重をのせられ、柔らかにくねるような景色は
わずかに右に傾げられた首のその表情を辿るためにつけられた歪みに思われます。
何をお願いするわけでもなく、どうなりたいと告白するわけでもなく、
お香をあげて手を合わせれば閉じたはずの瞼の裏に
先ほどお目にかかった技芸天さまのお姿が浮かんで消えません。
ああ、お会いできて本当に良かったと、心から思いました。
本堂の脇に見つけたのは立派な枝振りの木蓮。
和毛に覆われたつぼみはぷっくりとして、
暫くして咲く白い花と、建築の白い壁がさぞかし似合うことだろうと思われました。
唐招提寺も薬師寺も巡るつもりでしたが
秋篠での体験になんだか疲れがきてしまい、
西ノ京までいって参拝をあきらめ蕎麦屋に入りました。
夕方からは、おでん座でのご縁でお会いできた飯田さんと合流して
東大寺の修二会にまた参ります。
内陣をみせていただけるかもしれないとのことで、ワクワクしています。
yy
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