2014年9月8日月曜日

今日は仲秋名月ですよー、という話







毎年のことですけれど、
この日はこの詩を暗誦することにしているのです。
井伏鱒二の「逸題」という詩。



今宵は仲秋名月
初恋を偲ぶ夜
われら万障くりあはせ
よしの屋で独り酒をのむ

春さん蛸のぶつ切りをくれえ
それも塩でくれえ
酒はあついのがよい
それから枝豆を一皿

ああ 蛸のぶつ切りは臍みたいだ
われら先ず腰かけに坐りなほし
静かに酒をつぐ
枝豆から湯気が立つ

今宵は仲秋名月
初恋を偲ぶ夜
われら万障くりあはせ
よしの屋で独り酒をのむ
    (新橋よしの屋にて)




「われら万障くりあはせ よしの屋で独り酒をのむ」はまさに
大酒飲みの、独り酒の風景だと僕は思います。
仲秋名月も関係なく、いつも酒を独りで飲むのでしょう。
ただただ毎日飲むだけならつまらないので、
仲秋名月に初恋は、この日しかできない特別粋な“言い訳”なのだと思います。

だって、酒飲みでなければ、蛸のぶつ切りをわざわざ塩では頼まないもの。

生き生きとした喜びが、この詩から溢れています。
ごくごく平凡な毎日の、ささやかな喜びの時間。
新橋よしの屋は実際にあったお店だったそうですが、
そのお座敷だか椅子に井伏鱒二が妙にかしこまって居住まいを正し、
慎重に徳利の首をつまんで嬉しそうに傾ける光景が目に浮かぶようです。

枝豆は、夏の盛りの食べ物のイメージがありますが、
夏も終わりのこの時期の枝豆も美味しいと聞きました。特に北の土地のもの。



井伏先生は、本当の大酒飲みだったようです。
昼からウイスキーを、ワンフィンガーツーフィンガーといわず
ボトルを逆さにするようにドボドボとグラスへ注ぐような飲み方をされたと。



そういえば、井伏先生に憧れて、荻窪に住みたいと思っていた時期もあったっけ。




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