2014年11月19日水曜日

スーパーマンじゃなく凡人で良かったと思う、という話。








生活をしていくことに真剣味を感じはじめたのはいつからでしょうか。


小学生の頃、僕は「毎日同じ場所に通って仕事をする会社員にはならないぞ」
と心に決めた記憶があります。自分の好きなことをやって生きていくのだと。

中学生の頃、僕は「大学では哲学の勉強をしよう、生きていけるかどうかは大きな問題ではない」
と思っていました。研究者になりたいという気持ちがあったと思います。

高校生のはじめ、僕は「適当な大学に入ってシンガーソングライターになろう」
と考えていました。学生時代にいっぱい曲を作って仲間を集めて、
ミュージシャンになろうと考えていたのです。

高校2年からは、「芸大に入ればそのあとは歌手として活躍できるさ」
と軽く考えていました。その考えはしばらく変わらず、大学生活も3年目ぐらいまでは
本気でそのようなぬるい将来が実現すると信じて疑いませんでした。



思えばそのころまで、つまり、地に足の着かない夢を信じていた頃まで、
僕は自分のことをスーパーマンだと思っていました。
鋼のような身体、マッハで空を飛ぶ能力ではないですけれど、
ちょっと努力をすれば、一足飛びで何者かになれると思っていました。
自分の人生に障壁などないように思えました。なぜなら僕はスーパーマンだから。

スーパーマンだからこそ、自分の生活の心配なんて考えたこともありませんでした。
親が仕事に出て収入を得、それの使用方法を適切にコントロールしているからこそ、
僕の学費や洋服代、食費や娯楽費が不自由ではないぐらいにまかなわれているなんて
考えてもみませんでした。





自分が年老いるその日まで生活していくこと、もしかしたら家族を養っていくということ、
自分の子供に財産を残していくこと、そういったことを考えるようになったのは、
卒業を1年見送ると決めた、大学4年の中頃からだったと思います。
大学院の試験に失敗した僕は、それまで目をそらしていた自分の歌の下手さに気付きました。
人から褒められる特性はいくつかあるけれど、歌手である僕の歌が上手くなければ
何者でもないじゃないかと気付きました。
自分はスーパーマンでも何でも無いのだ、どこまでも普通の凡人だと、認めました。

生活のことを真剣に考えはじめたのは、その頃からです。




「どうやって生活をするのか」の選択肢のなかに、就職はありませんでした。
無謀かもしれないけれど、自分のスキルと身ひとつで生きていくことを選びました。
なぜならば、そちらの方が未来を想像した時に、ワクワクしたからです。

そう決めてから、日々の中身が変わっていきました。
ノマドやフリーランスや個人事業主についてや確定申告について調べはじめました。
テクノロジーについてより積極的に情報収集するようになりました。
読む本の種類が小説から自己啓発本やハウツー本、新書へと変わっていきました。

それまでは、学校内でどれだけ目立つかや、その狭い範囲のなかでどうやって生きていくか。
そんなことを考えて毎日を過ごしていました。
どれだけくだらない冗談を矢継ぎ早に繰り出せるか、噂話に精通するか。

でも、自分はまだ何者でもないただの凡人だと気付いた瞬間に、
将来自分が生活するために立っているフィールドは、けっしてこのままの
大学という狭い世界ではないのだと気付きました。
その外にある無限に広く可能性がある世界の存在に気付いたのです。
限られた範囲でぬくぬくと冗談ばかり言い合って生活していくことは不可能なんだ。
外の世界で何者でもない自分からスタートして、何者かに成り上がっていかなければ
生活なんて成り立たないんだ。
この自覚ができてから、お金のことや人生のことを真剣に考えるようになりました。



面白いのは、以前のスーパーマンだった僕のときより、
今の何者でもなくお金のことや仕事のことを考えている僕の方が、
生きている時間を楽しく、ワクワクしながら過ごしているということです。

空想だったら、スーパーマンのように、何でも出来て、強くて、誰にも愛されて、
そんな人生こそ夢のように素晴しく感じますが、
現実として生きていくときには、スーパーマンじゃない方が素晴しい。

現実を空想として捉えて生きていくよりも、現実を現実として考えあぐねながら
チャレンジを繰り返して生きていく方が楽しい。
どうやらこれが真実のようです。




スーパーマンだった頃は、自分が有名になることばかりを考えていました。
スーパーマンだった頃は、自分がちやほやされて、自分だけが良い思いをすることばかりを考えていました。

凡人になってからは、自分がすこしでも上手くなって重要な歌い手になることを考えています。
凡人になってからは、自分の力を惜しみなく使って他の人が幸せになる方法について考えています。
凡人になってからは、僕が得たものをより多くの人に分け与えることが大事だと考えています。





自分はスーパーマンじゃないと認めてからはじめて、
フワフワと足のつかない考えではなく、地に足のついた人生観を持つことができるようになりました。
夢は心地よいものでなく、実現させたい確実にくる将来に取って代わりました。
生活していくことを真剣に考えてはじめて、歌うことの楽しさと尊さをしっかりと感じることが出来ました。



僕は、凡人でよかった、と思います。




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